前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

「こちらでしょうか」
「ああ、ありがとう」


 お礼を口にして、先生は並んだ背表紙に次々と視線を移していく。私は取るのに苦労する一番上の列の本にも、楽々手を伸ばしている。


「浜菜さんに聞いたほうが、端末で検索するよりずっと早い。術式の難しい名前を出されても、その本がどこにあるかをしっかり把握してくれている。たくさん勉強しただろ」


 目は書籍に向いたままだが、穏やかな声が投げかけられてじんわりと胸が温まる。

 忙しい先生たちのために少しでも貢献したくて、書籍の場所はもちろん、診療科目別にどんな資料が必要かも徐々に覚えるようにしている。

 でも、この努力を理解してくれたり、労ってくれる人はほとんどいない。皆、患者さんのことに専念しているのだから当然だ。なのに、明神先生だけは違う。

 彼の視野の広さと気遣いに感謝し、私は謙遜して首を横に振った。


「明神先生はさすがです。執刀医になった今も勉強を続けていらっしゃって」
「いや、この難易度の高いオペを執刀するのは初めてなんだ。手術の実績数も増やしていきたいし、俺なんてまだまだだよ」