時間をかけて準備を整えたあと、熱く滾る彼がひとつになろうと試みる。こればかりは少し怖くてぎゅっと目をつむっていると、彼は上体を屈めて私の頬に手を添えた。


「伊吹、俺を見て」


 瞼を開けば、私を安心させる笑みを浮かべた彼がいる。


「大丈夫。もっと君と愛し合いたいだけだから」


 耳から流れ込む声はまるで温度を持っているかのように温かく、強張りを溶かしていく。

 その気持ちは私も同じ。すがるように彼を見つめて頷くと、一度キスを落として私の中に熱が割り入ってきた。

 想像通り痛い……! が、耐えられないほどではなく、むしろ愛しさが上回る。先生が私を気遣って抱いてくれているのがわかるから。


「せん、せ……大好き……っ」


 逞しい背中にしがみついて喘ぎながら無意識に伝えると、余裕のなさそうな彼も嬉しさを露わにする。


「ああ、俺も」


 想いが通じ合った実感がどんどん湧いてきて、目尻に喜びの涙が滲んだ。

 戸籍上はすでに夫婦だけれど、ようやく恋人になれたような初々しい気分。

 いつかの虚無感も過去のトラウマも、今夜はすべて消え去り、肌を重ねて愛される初めての幸せにひたすら酔いしれた。