前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 先生を見上げれば、気だるげに小首を傾げ、綺麗な二重の瞳がこちらに向けられていてドキリとした。『俺のものに』という言葉に胸が反応してしまう。


「もちろん!」


 ひと呼吸置いたあと、嬉しそうに快く答える祖母のほうへ、バッと顔を向ける私。

 待って、おばあちゃん。先生は絶対ノッてくれているだけで、内心すごく困っているはずだから……。

 微妙な顔でそう宥めようとした瞬間、先生のスッキリとした薄めの唇がおもむろに動く。


「外科医の嫁は大変だって愚痴も聞くけど、俺は奥さんを愛すのもおろそかにしないよ」


 そこはかとなく甘い声が紡がれ、私は目を見開いた。

 ……冗談なのか、なんなのか。こちらを見つめる彼の表情は変わっておらず、真意は読み取れない。けれど、まるで私が妻になる前提の発言のように思えてしまう。


「ところで、下肢動脈バイパス手術について調べたいんだが」


 胸を鳴らして呆ける私に、専門的な言葉が投げられた。ふわふわと浮かんでいたシャボン玉がパチンと壊れたみたいに、一気に現実に引き戻される。