前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 たとえ彼が私を忘れていても、図書室で話す機会ができただけで胸が一杯で、それで十分だと思っていた。……それなのに。


「先生、私のこと覚えていたんですか……?」
「もちろん。俺が外科医になるのを諦めなかったのは、君が無茶苦茶な手紙をくれたおかげだからね。涙を見られたのも、弱音を吐いたのも伊吹が初めてだったし」


 私たちの出会いを蘇らせる先生は、懐かしそうな目をして宙を眺める。


「〝先生の練習用として使ってください〟なんて書いてあるから、二度とそんなふうに言われないように腕を磨いていこうって決心したんだ。落ち込むたびに思い出していたよ」
「私のあんな手紙で?」
「ああ。案外きっかけなんて些細なものだ」


 私の実家で『今も医者を続けているのは、彼女のおかげでもある』と話していたのはこのことだろうか。あの日、私だけじゃなく先生も力をもらっていたの?

 なんだか信じられなくて呆気に取られていると、彼はわずかに唇を弓なりにした。


「司書として働き始めたのが伊吹だと気づいたときには驚いたよ。魅力的な大人の女性になっていてドキッとした」