前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 もちろん私は医療に関してはなにも知らない。けれど、人体を切り開き内臓を見て、ときには死の瞬間にも立ち会う仕事がどれほど厳しいものかは、容易く想像できる。

 この人は現場で働き始めたばかりで、壁にぶち当たっている最中なのかもしれない。

 悩んでいるのがひしひしと伝わってくるものの、なんと声をかけたらいいかわからず黙り込んでいると、彼の口調が少し軽くなる。


「勝手につまらない話してごめんね。君はいくつ?」
「十四歳です」
「十四、てことは中学二年か。そのくらいの時期は毎日楽しいだろ。早く足が治るといいな」


 彼はギプスで固定された私の足を見下ろし、優しく微笑んだ。

 その言葉に悪気などあるわけがなく、純粋に励ましてくれているのは十分わかる。しかし私にとっては地雷同然で、心にみるみる棘ができていく。


「楽しくなんかありません。いられるものならずっとここにいたいです」


 ぎゅっと手の平を握った私は、誰にも言えない本音を口にしていた。

 目を見張る彼からふいっと顔を背け、ドアのほうへと車椅子を動かす。どんなお医者様でも、きっとこの心の棘を取り除ける人はいないだろうと思いながら、肩を落として病室へ戻った。