前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

「ね、先生。もし彼女がいないなら、うちの孫を嫁にもらってやってくんないかい?」


 ──予感的中! 恋人はおろか嫁って……なんて大それたことを!

 驚愕のお願い事に、普段決して大声など出さない私も、青い顔で叫びたくなった。明神先生もぽかーんとしている。


「おばあちゃん!?」
「この子、可愛いだろ? 目はパッチリ、唇はふっくらしてて、派手さはないけど品がいい顔立ちでさぁ」


 私はあたふたしてカウンターに身を乗り出し、完全にお節介をして楽しんでいる祖母に詰め寄る。


「ちょ、ちょっとなに言って……!」
「私は本気なんだ。死ぬ前に伊吹の花嫁姿が見たいんだよ。一度でいいからさ~」
「そりゃ、一度しかしたくはないけど!」


 本当に本気なのか疑わしいが、彼女は胸の前で手を組み、切実そうな顔でこちらを見上げている。

 明神先生が間近にいることも忘れ、あーだこーだと言い合っていたときだ。カウンターにトンと手を置かれたことで我に返り、口をつぐむ。


「いいんですか? 可愛いお孫さんを俺のものにして」


 落ち着いた低音ボイスが響き、私たちは目を丸くしてぴたりと動きを止めた。