前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 イケメンドクターは苦笑を漏らし、「恥ずかしいとこ見られたな」と手で頬をぐいっと拭った。全然恥ずかしくなどないです、と私は心の中で呟く。

 先輩との一件以来、病院内でも男性を見ると恐怖を感じ、警戒してしまう。

 しかし、この人は医者だ。患者になにかするはずないだろうという絶対的な安心感があるせいか、私は自分から近づき、どうしても気になるので涙の理由を問いかけた。


「なにか悲しいことがあったんですか……?」
「……ああ、毎日悲しいことばかりだ。自分の無力さを知って、打ちのめされてる」


 浮かない表情の彼が首から下げる名札を見れば、〝研修医 明神久夜〟と記されている。研修医というのは見習いみたいなものだろうか。どうりで若いわけだ。

 なにがあったのか詳しくは突っ込めずにいると、彼はぽつりぽつりと話しだす。


「勉強はたくさんしてきたけど、実際に処置をする場面になったらなにもできないってことが続いてね。頭の中で理解するのと、生身の人間を相手にするのとではやっぱり全然違う」