前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 先輩は動きを止め、舌打ちしてようやく離れた。すかさず上体を起こして乱れた服を直す私に、彼は見下ろす冷たい瞳はそのままで口角だけ上げてみせる。


「残念、最後に穢してやりたかったのに。じゃあな」


 ゾクリとして身を縮めたものの、〝最後〟という単語が引っかかった。そして私から目を背けた一瞬、ほんのわずかに悲しげな表情になったような気がした。しかし、それらに囚われる余裕などない。

 先輩は倉庫の扉を開け、堂々と出ていく。外にいた先生になにをしていたのかと問い質されている間に、私は一目散に駆けだした。


 夕日に染まる街中を家に向かって走っていたが、膝が震えてふらつく。その間にまた涙も溢れてくるものだから、こんな状態では帰れなくて遠回りになる道を選んだ。

 ……ずっと先輩の言いなりになっていたのに、最近は拒否していた私がいけなかったのかな? どうすればこんなふうにならなかったんだろう。

 同じ考えがぐるぐる回り続け、気持ちもぐちゃぐちゃで、どこをどう歩いているかもわからないくらいで。

 ──気がついたときには、目前にバイクが迫っていた。