「なあ伊吹、俺の彼女になれよ」


 唐突に告げられたのは、またしても強引な要求。先輩が私に恋愛感情を抱いているとは思えなかったので、なにを考えてこんなふうに言うのかわからなかった。

 それに先輩のことは嫌いではないけれど、付き合うのはやっぱりちゃんと好きになった人がいい。その本心に従い、私は怯えながらも「ごめんなさい」と返した。

 直後、スッと冷たい表情に変えた彼は、断られるとある程度予想していたと思う。おもむろにこちらに近づき、後ずさる私を追い詰める。


「オトモダチができて強気になったみたいだな。皆上辺だけで、俺がいなきゃまともにしゃべれないお前を相手にするヤツなんかいねぇのに。本当は孤独なんだよ、お前は」


 いらついているのが明白な口調も、私には真の友達もいないのだと思い知らされるのも怖くて、棚にぶつかった背中には冷や汗が流れた。

 彼は普段の威圧的な態度とはどこか違い、じわじわと危機感が増していく。


「先輩……?」
「でも、暇つぶしの価値くらいはあるか。俺もロクな人間じゃねぇからな」


 彼はひとり言を吐き捨てた直後に私の肩を掴み、畳んで置いてあったマットの上に押し倒した。