「あ、あの、よろしければこれをどうぞ……」


 私は身体を引き気味で若干震える手を伸ばし、自分のハンカチを差し出した。

 先輩は一応それを受け取ったあと、ギロリと鋭い瞳で見下ろしてくる。


「なんだよ。あんた誰?」
「にっ、二年三組の浜菜です。その、血が出ているので……」
「こんなもんいらないんだけど。つーか、怖がるくらいなら話しかけんじゃねぇ」
「はい! 失礼いたしました!」


 自分の手の甲で口元を拭う彼に、私はバッと勢いよくお辞儀をして、お役御免とばかりにそそくさと逃げ出したのだった。

 ところが数日後、まったく予期していない展開が起こる。私のクラスの教室に重南先輩がやってきたのだ。


「浜菜ってヤツ、どこ?」


 まさかの呼び出しをされた私だけでなく、クラスの皆が驚愕した。あの不良男子が存在感ゼロの地味女子を捜しているって一体なぜ!?と。

 あからさまに怯えながら彼のもとへ向かうと、「これ邪魔なんだよ」と言ってあの日渡したハンカチを返された。

 言葉や態度はぶっきらぼうだけど、わざわざ返しにくるなんて実はそんなに悪い人ではないのかも……と、その日から少し印象が変わったのを覚えている。