やだ、どうして……もう触れられても大丈夫だと思ったのに。

 無意識に拒絶してしまった自分に冷や汗を掻き始め、冷静にこちらを見つめる彼に慌てて弁解する。


「あの……ご、ごめんなさい! 決して先生が嫌なわけじゃなくて……!」
「うん、男が怖いんだろ?」


 心に寄り添うような優しい声で言われ、はっとした。目を合わせれば、彼はわずかに切なげな笑みを浮かべる。


「わかってたよ。十年前、君が入院していた頃から」


 予想外のひとことに、私は驚きを隠せず目を大きく見開いた。頭の中には、先生と初めて出会った日の映像が鮮明に流れる。

 まさか、先生も覚えていたなんて。患者の立場だった、学生時代の私のことを──。