前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~

 違うのよ美來ちゃん、あれは寝癖じゃなくて無造作ヘアなの。表情筋が死んでるというより、喜怒哀楽をあからさまに出さないだけだと思うし、だからこそ時々見せる笑みにキュンとするのよ。

 心の中で少々物申している間に、先生はカウンターに近づいてきて、穏やかな声で祖母に話しかける。


「トキさん、女子会楽しそうだね」
「楽しいよ~、若返るよ」


 祖母は本当に楽しそうな笑顔で返した。

 明神先生もたまに図書室にやってくるので、よく会う祖母とも仲がいい。そして、私の顔と名前も覚えてくれている。

 彼は資料を探すとき、検索用端末を使わずに私に直接尋ねてくる。おかげで接する機会が多いため、明神先生だけは他の人よりも気を遣わずに話せるようになった。

 寡黙な彼は、話下手の私でも焦らずに会話できるので、そのペースが心地よかったりもする。

 憧れから恋心に変わるのも必然だったのかもしれない。私の中で特別な存在になる男性は、今のところ先生しかいないのだから。

 今日もなにかの資料を探しにきたのだろうと思い、応対する姿勢を整えたのもつかの間、祖母が意味深な笑みを浮かべるので、なんだか嫌な予感がした。