花風

ソファーでタバコを深く吸い込み、思い切り吐き出す。

「……ふぅ」

朝の1本目に溜息を混ぜ、少し考え事に身を委ねる。

昨日、女性の同居人が増えたが、それは普通ならば在り得ない事だった。
幾らルームシェアとはいえ、防犯上から見ても男の住んでる部屋に若い女を入居させる事など思い付かない。

確かに男女用の物件はあるけど、おそらく彼女はミツキという名前から女性と暮らすものと信じていたのだろう。

昨日は悪いことしたかもしれない、彼女の話を聞きながら怪訝な顔になったのが自分でもよく分かる。
少し怯えた表情に後ろ髪を引かれた気がした。

「く…ま…さん」

声に反応してタバコを消しながら振り向くと、寝癖で散らかった髪の毛のまま寝ぼけ眼を擦りながら女の子が立ち尽くしていた。

「お…おはよう……」

「おはよう、くまさん」

精一杯の笑顔で言ったものの、返って来た言葉に不意を突かれてしまう。

「くまさん？……あ！」

いつもの癖が抜けずにパジャマ代わりのクマの着ぐるみで居た俺は急に恥かしくなった。

それを噛み潰すように平然を装っていると、女の子は少し瞬きを繰り返して静かに目を開いていく。

「……おはよう」

再び声を掛ける俺を見て女の子は途端に慌て出して言った。

「え！？あ、おはようございます！えっと……あー、すみません！」

ようやく目覚めたのか、女の子は顔を真っ赤にして自室に戻って行く。


『どうしよう……謝るの忘れた』

そんな事を頭に浮かべて俺も自室へと戻った。