「女性の方……少し待っててくれるかねぇ」

そう言って年老いた男性が重そうなファイルを持ち出し、人差し指で眼鏡を上げて優雅に捲り出す。

今にも崩れそうな小さい部屋、黄ばんだ壁に古びたポスター、乱雑に物が置かれた事務机の狭い中、ファイルを広げた年配男性を前に佇む。

都会に就職出来たものの、田舎町の賃金では僅かな貯金しか無く、小耳に挟んだルームシェアと言う情報を手掛かりに不動産屋を訪問していた。

「あぁ、1件だけある、ここじゃ」

軽やかな声で男性が告げ、此方にファイルを寄せて指し示す。

''真野ミツキ''と記された文字に小さく頷き、男性に問い掛けた。

「お部屋とかは見せて貰えるんでしょうか?」

自分の言葉に男性は眼鏡を顔から外し、それを手にして口を開く。

「案内して上げたいのは山々なんじゃが、何分足が悪くての……間取りも悪くないし家賃も相場より低い、どうじゃろうか」

その言葉に少し考えた。
まだ23歳で勉強ばかりして社会経験も殆ど無い自分、女性と一緒に暮らせるのか不安になった。

だがしかし、そうも言って居られない理由がある。
ここに辿り着くまでに既に10件程は訪問し、全部が男性ばかりだった。

今後、女性を紹介して貰えると言う当ても時間も残されて無い。

それに部屋の間取りは2LDKで悪くはないし、家賃も今まで見て来た中に比べれば安い。

「じゃぁ、そこに決めます」