ザザン……

      ザザン……

           ザザン……

砂浜に転がる大きな丸太に座り、私は、寄せては返す波を眺めていた。

6月6日、今日は剛士(つよし)の一周忌。

家族ではない私は法要に呼ばれることもない。

ただ独りで、彼が逝った海を眺め、彼を(しの)ぶ。

あの時、楽しそうに振り返って私に手を振ってくれた。

私がどんなに叫んでも、波の音と風の音にかき消されて、彼に声が届くことはなかった。

あの時、私が一緒じゃなければ、彼は振り返ることもなく、事故に遭うこともなかったかもしれない。

私さえ……







その時……

カシャ

小さなシャッター音が聞こえた。

音のした方を振り向くと、一眼レフを構えた男性がこちらに歩いてくる。

何? 誰?

「突然すみません。
 海の写真を撮りに来たんですが、あなたが
 あまりにも美しかったので、撮ってしまい
 ました。
 データをお送りしたいので、ご連絡先を
 教えていただけませんか?」

物腰柔らかく、丁寧に話してるから紳士に見えるけど、これって要するにナンパだよね?

浅黒く日焼けしてることもあり、全身が引き締まって見える彼は、ナンパの必要性を全く感じさせないイケメンさんだ。

だけど私は、元々ナンパに応じるタイプじゃない。特に、彼を忘れられない今は、尚更そんな気分ではない。

「結構です。要りませんから」

私はきっぱりと断った。

「いえ、今後、コンテストに応募したり、
 個展を開いたり、使用するたびにあなたの
 許可が必要になりますから」

何? この人、プロのカメラマン?

それでも……

「いえ、結構です。
 ご自由にどうぞ」

私は(かたく)なに連絡先を教えなかった。

彼は、振り返りつつも諦めて去っていく。

もし、彼との別れが普通の失恋だったら、もしかしたら連絡先くらい教えたかもしれない。

でも、彼はこの海で亡くなった。

どこかで彼が見てるような気がして、彼の前で他の男性の誘いに乗るような真似はできなかった。