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…何か、ちょっと重い。


身体が上手く動かせなくて、中々開いてくれない瞼を頑張ってあけた。


明るい……朝…だね。
まだ、アラームは鳴っていないから、早朝なのかも。


壁の方向を向いていたはずの身体はいつの間にか仰向けになっていて、宮本さんの腕と足が、グルンと見事に巻き付いている。頭には宮本さんのおでこが、頬には鼻筋が、くっついていて、全く身動きがとれない。


すやすやと気持ちよさそうに寝ている宮本さんの可愛い寝顔が少しだけ動かす事の出来た視界に入った。

手は出してくれないけど、やっぱりこうやって抱きしめて朝を迎えてくれるんだ……。


『試してみますか?』
『うん』


本当に優しい人だな、宮本さんは。
でも、こんな風に朝を迎える可能性はもうなくなるんだよね、後…今日入れて二日で。

元の…単なる顔見知りに戻って。
挨拶位はするのかもしれないけど、ただすれ違うだけ。


そして、宮本さんには彼女が出来て……


そこまで考えて急に切なくなって、視界がぼやける。こぼれた涙が、宮本さんの鼻先にぶつかった。

「ん…」っと少し声を出してから、顔を動かして、頬に鼻先をすり寄せる宮本さん。


「……恐い夢でも見た?」


…恐い夢、か…。
どちらかと言うと、今が夢の中で、現実に帰る事が恐いけど。

そんなことを正直に言えるわけもなく、「すみません」と呟いて笑ったら、宮本さんは私の頭を優しく撫でながら、クッと笑う。その優しい声色が、耳に近い所で掠れ声として聞こえる。


「俺ばっか安眠してる?もしかして。」
「そ、そんなこと無いです。」
「いいよ?正直に言って頂いて。まあ…言われたからってやめる気はないけどね。」


もぞもぞとゆっくり動いて、私の顔の横に肘を立て少し顔を起こすと、上から私を見下ろした。眠そうな飽ききらない、そのトロンとした目が可愛くて、思わず手を伸ばし、その髪に触れた。


「…髪、昨日より凄い事になってます。」


宮本さんは言った私に微笑み、そのままフワリとキスをする。

リップ音の後、交わった目線。

そのまま、今度は、何度も、何度も、啄む様に降ってくるキス。唇が離れる事がもどかしく思えて、宮本さんの髪に自ら指を通し少し引き寄せた。


それに呼応するかのように、今度は、長く、深いキスに変化して、舌が絡み合う。


「ん…ぅ」


息苦しさと気持ちよさの狭間でもらした吐息を掬い取る様に、何度も塞ぎ直される。


もっと…宮本さんに触れたい…触れて欲しい。


でも、それは叶わない。

締め付けられるような苦しさを覚える中、湧き上がる涙を堪えて、くれるキスを一生懸命に受け入れた。



「……麻衣、もう一泊しよっか。」


しばらくキスを繰り返してから、宮本さんが私の髪を丸い指で撫で、相変わらず、穏やかな笑みで私を見下ろした。


「今日、また、ミーティングだなんだで11時出勤なんだけどさ。半休取ったから、麻衣と一緒に会社出れるから。」


あ…そういえば、昨日、お弁当のおかずのやり取りした時に、『明日も通常勤務?』と言うメッセージも来てたな。
そっか、半休取る為に聞いてくれていたんだ…。


「どっか、麻衣の行きたいとこ、行こうよ。」
「み、宮本さんは…行きたい所とか…」
「あー…。俺に決めさせたら、ここに直行になるからさ。出不精なんだよね、基本。」


…それでも良いんだけどな。
宮本さんと一緒に居られればどこでも私は。


でも、恋人生活も後二日。
デートっぽいことをしておいた方がいいのかも。


「じゃあ…観覧車に乗りたい…」
「観覧車…ね。りょーかい。」


宮本さんが顔を再び近づけて鼻先をすり寄せながらまた私を撫でる。
それから、少し顔を傾げて私の唇をまた啄む様に一度キスをして…今度は涙の跡が乾いた目尻に唇をくっつけた。

次は頬、それから…耳たぶ。

フウッと息が吹きかかり、思わずビクッと身体を強ばらせたら、髪を撫でていた宮本さんの掌が頭を軽く抑え固定されて。

耳をそのまま這っていくその薄めの唇。

吐息が鼓膜を刺激して、触れる舌先に


「やっ…」


思わず声を出してしまった。

途端、くふふと微かに聞こえた笑う声。
耳の付け根に唇がくっついて、首筋をパクッと挟まれた。


「…また、夜…ね。」


宮本さんは掠れた声でそう言ってから、ギュウッと私をまた抱きしめる。


「…麻衣、もう一眠りしよ。」
「は、はい…」


私の返事を聞くか聞かないかのうちに、再び、宮本さんは寝息を立て始める。
私を捕らえて離さないその腕と足。


…この先もずっと、こんな風に抱きしめてくれたらいいのにな。


沢山、優しいキスをしてくれて…あったかくて優しくて…幸せな時間。


………なんて、叶わない夢、だけどさ。


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