「お主達は面白い技と術を使うのう。」
 伊勢宗瑞は風間谷の住民を見て言った。
「 左様でございますか。お褒めいただいて光栄です。」
 術者達の(かしら)を務める男は答えた。
「その術はどのようなものなのだ。 もっと見せてはくれまいか。」
 宗瑞は頭の男に頼んだ。
「誠に申し訳ございません。それはできませぬ。 技も術もひとたび見せてしまうと返しの技・返しの術を編み出されてしまいます。」
 宗瑞はこの男達に興味が湧いた。
「もっともな話だ。では儂に協力はしてもらえぬか。報酬は十分に出そうではないか。」
「ありがたきお言葉。」
「処で、その技はいつ頃から使われておるのか尋ねても構わぬか。」
  宗瑞の問いに頭が答えた。
「源平合戦の頃に源義経様が使い、承久の乱では那須大八郎という男が使ったと聞いております 。」
 宗瑞は那須と言う苗字に思い当たる節があった。
「大八郎は那須与一とは関係あるのか。」
「はい、大八郎は与一様の弟でございます。承久の乱ではこの術で北条氏に天下をもたらしたとの事でございます。」
「儂が北条姓を名乗り、お主らと組めば天下を取れるかのう。」
 宗瑞はまだ半信半疑でもあり軽い口調で言った。

 この時、男達はまだ風間谷の草でしかなかった。

 宗瑞が東国で戦を重ねていくと、この草の者の過去の噂を耳にする機会が増えた。この草の者の先祖が北条政子に勝利をもたらしたと言う者も多く益々興味が増してゆく。
 相模国足柄郡風間谷の者達が天狗の技を持ち鬼の術を使うと知った時、もう一度会ってみたくなった。