しぶしぶとピアノに向かう西村
あんまりしっかり見たことなかった西村の白く、細く、綺麗な手が黒いピアノに触れた
ブワッと西村からなんかのオーラが出る
ま、そんなの俺の気のせいに決まってるけど
さっきまでの西村とは確かに違う
ローファーを脱ぎ椅子に腰掛ける
なんていうんだろう
なんか今までに見たこともない西村だったから戸惑ったけど
一言で言うと
綺麗。
本当に綺麗だった
夕日を横から受けて西村の肩までの黒い髪がキラキラしてる
人より茶色い瞳が鍵盤を捉えている
スッと息を吸う音がして指が動く
優しい、綺麗な、柔らかい音色が俺の身体を浄化するみたいに流れていく
ああこれだ。
俺が聴きたかったもの
目を瞑って西村の奏でるピアノの音だけに神経を集中させる
一つ一つの音がしっかりしていてそれでいて綺麗で
まるで音楽室じゃないみたいな世界観
俺なに言ってんだろ
専門家でもないくせにいきなりピアノについて語り出しちゃってさ
でもそのくらい…
俺を夢中にさせるには十分だった
目を開いて西村を視線に捉えると
もう、
その視線を外すことはできなくなる
長い睫毛が茶色の瞳にかかり、夕日を受けて輝く黒い髪が揺れ、
見たことなくらい柔らかな表情をした西村が
俺の心を捉えて離さなかった


