かすかではあるけど確かに聞こえた


ピアノの音だ


♪〜





まただ


音のする方に押されるように身体が動く



♪〜


次第に大きくなっていくその音


なんの曲かはわからないけど


純粋に綺麗な音



ここだ


この階段の上


音が確実に聞こえる


階段を登るたびにはっきりとする柔らかいピアノの音


♪〜


なんの曲なんだろ…


なんて綺麗な音なんだろう


気がついたら音がなる部屋の目の前に立っていた


ドアの窓ガラスはくすんでて中がよく見えない



流石にドアを開けてズカズカ入っていくことはできず


部屋の前で棒立ちするだけ



曇ったガラスの向こう側


誰がいるんだろう


どんな子が弾いているんだろう



そんな疑問よりも前に、ただこの音を聴いていたいと思った


ドアの横の柱に背をつけて座る


さっきまでのイライラがすっと消えていく



しばらくその謎のピアニストと二人きりのつもりの時間を過ごし


音が途切れた


誰が弾いているのか知りたいと思ったけど



こんなとこでずっと聴いてたなんでバレたらキモがられるよな…



中の人物が扉の外に出てくる前に、


俺は旧校舎から出た



振り返り、再び古ぼけたそれを見る



誰だろう



果てしなく気になる



あのピアノを弾いていた子は…