爽やか王子の裏側は





「月の光」


ドビュッシーのベルガマスク組曲第3曲



夕日が差し込む音楽室に少し寂しげな和音が響く



私が指を動かすことで響く音


この感覚が大好き



月の光が差す丘の情景が浮かぶ


そのなだらかな丘の上に座る白いワンピースの女の子


勝手にそれを自分に置き換えて



……



ーー




パチパチパチ



「すっげ…」



気がついたら曲が終わっていた



「なぁピアノ弾いてる時の西村って雰囲気全然違うな」


へ?


「そ、そうですか?」



「なんか見たことないくらいイキイキしてる」



…いきいきしてる



「まあ…楽しいので」



「ふーん」



というか、気になってたんだけど



「園川くんは私のピアノいつから聞いてたんですか?」


「え」


「知ってたんですよね、私がピアノ弾いてたこと」


「あ…まぁ」


「なんでこんな旧校舎にまできて聞いてたのかなって…何か旧校舎に用事でもあったんですか?」



「…まぁそんな感じ」



そうなんだ


それにしても返事の歯切れが悪いな



「と、とりあえず!長谷川先生とか、他の人には言わないでくださいね!」


ピアノを弾いていたことをバレたくなぃぃ


「…んーどうしよっかなぁ」



なっ!!


こ、こやつ!!



「もし言うんだったら私も園川くんが本当はゲス野郎だって言いふらしますよ!」


「ゲス野郎?心外だなー」


「言わないでくださいよ!私がピアノ弾けるのここしかないんです!」


思わず必死になって言わなくていい情報を言ってしまった


「そうなの?」


う、ぐ


「…はい。家にはピアノがないので。ここで弾けなくなったらもう…」



「…それは困るな」



え?今何か言った?



「じゃーお互いに秘密握ったわけだし、フェアに行こう」



ふ、フェア…