いつも爽やかで、素敵な笑顔のみんなの王子様は
ちょっと厄介な性格をしていました
自分を偽って偽物の笑顔をし続けていました
もちろんそんなの聞こえも悪いし、嘘をつかずに自分らしく生きることに越したことなんてない
だけど
たとえどんなに取り繕っていようが、彼の本当の優しさは変わらないのです
彼が大嘘つきだったから、私は彼に出会うことができたのかもしれない
私しか知らない彼の特別な一面
「西村は普段の俺と本当の俺、どっちがいい?」
分かりきってるような質問をしてくる
「私は爽やか王子な園川くんも、性悪短気な園川くんも、不器用でストレス溜めやすい園川くんも、全部好き!」
「ぷはっ!なんだそれ!」
クシャッと笑う園川くん
だって本当なんだもの。仕方がない
「ねぇ西村、お願いがあるんだけど」
ピアノに頬杖をついて私を見た
「ピアノ弾いて」
え?
「最近聞けてない」
ピアノ…目の前のピアノに視線を落とす
私も最近弾けてないよ
「俺、初めて聴いた曲が聴きたい」
初めて聴かせた曲…
ドビュッシーの月の光だったはず
私の一番好きな曲
「月の光っていうんだよ」
「月の光」
「私の一番…好きな曲」
指を鍵盤にそわせる
そして、指に力を入れる
少し懐かしい響き
なんて落ち着く暖かい音なんだろう
しかも隣に彼がいるから余計だ
もうこの曲を弾くたびに何年先も園川くんのことを思い出すに違いない


