「な、頼むよ」
私の目を覗き込む園川くん…
……
うう
ため息をつく
「わ、かりました」
思わずそう答えていた
さっきまでの光のない目ではなく、イキイキとした幼い子供のような無邪気な表情に心を打たれてしまった私
…びっくりした
あんな顔見たことない
作った笑顔か、ゲスい顔か、何を考えているのかわからない真顔か
最近はそんな顔しか見てなかったから
新鮮な、園川くんの感情のあらわになった表情にうまく返せなかった結果だ
再び音楽室に入り、夕日のあたるくすんだピアノに触れる
その瞬間、周りにあったはずの机や、段ボールや、園川くんまでもが私の視界から消えた
いや、正確には存在してるんだけど
ピアノの存在を全身全霊で受け止めたい私にとって
それ以外のものは意識の外に行ってしまうようなもの
パコッと音を立ててピアノの蓋を開ける
白い歯を優しく撫で、椅子に腰を下ろす
ローファーを脱ぎ冷えたペダルに足を添える
…
はぁ
これだ
この感触
私の大好きなステージに変わる瞬間


