爽やか王子の裏側は




ズリ、ズリ


かかとがコンクリートにかすれる音



だらしなく家までの道を歩く



…何を考えてたっけ



魂が抜けたみたいに思考が回らなくなってきた



…これでよかったって思うたびに思い出される慣れない温もり


首をブンブンと振って記憶から飛ばそうとすればするほど濃くなっていくことに気づかずに



引きずるように歩いていた足が止まった



思い出しちゃダメなのに


今、なんでこんなにも…園川くんに会いたいんだろう


園川くんにピアノを聴かせたいんだろう



最近ずっと弾けてないピアノ



ピアノ弾きたい



園川くんに…聴いて欲しい



ポロ


瞬きをした瞬間に視界が少しぼやけた気がした


少ししょっぱい鼻を刺すような独特の匂い



涙の匂い



頬を撫でるように顎に向かって落ちていく滴



「く、うぐ…ふぅ…」


歯を食いしばる


もう少しで家に着くのに



なんで私…泣いてるの


早く泣き止め、早く



こんな姿誰にも見せちゃダメだよ



早く…止まれ