……
「なんでどちらかを取らなきゃならないの?」
思わず疑問に思った事が口から出た
「…は?
だから、両方なんて…ダメじゃ」
「別にやればいいじゃんか、両方」
「…そんなの贅沢…」
「贅沢かな…?片方に集中できないんだったら両方に集中すればいいんじゃない?
一つのことを高める人はそれだけに努力を注げばいいけど
二つのことを高めようって思ったらその倍の努力がいるんだよ?
二つとるならそれだけの努力がいる
一つの人より大変なんだから贅沢も何もないと思うよ」
「…え?」
「それに長谷川くんにはピアノの才能と陸上の才能、二つの才能があるんだから仕方ないよ」
「…仕方ない?」
「うん。二つも才能の芽があるんだから
むしろそれをどちらも無駄にしない長谷川くんはすごいよ」
「え?…」
「長谷川くんは今はもう走れないの?」
「…いや」
「だったら走ればいいよ。転けそうになったら、転べばいい
そりゃピアノをやる上で手を守らなきゃならないのは当然だけど
だからって陸上やっちゃダメなんてそんなのおかしいよ!
両方とも本気になって夢中になってやればいいじゃん
そしていつかどちらかに決めるときが来たらその時はまた悩めばいい。きっと中途半端な今より気持ちよく悩めるよ」
私の言葉に少しだけ口を開けていた長谷川くんはフッと息を漏らした
「……西村華乃は本当…変わってるよ」
「長谷川くんはどうしたい?」
長谷川くんはゆっくり下を向いた
前髪で目元が見えない
「…っ俺…どっちも…やりたい」
ずずっと鼻をすする音が聞こえた
手で目元を覆っているけど
口元は歯を食いしばり、少し震えていた
「こんなに悩んで後悔できるくらいなんだから
長谷川くんは本当に陸上もピアノも好きなんだね」


