それから一週間、引越しの荷造りや部屋の片付け、加えて仕事で毎日が慌しく通り過ぎていた。
その間に風の噂で谷口が押し掛けて来た"ナナちゃん"と付き合いだした事を聞いたり、凜太郎に何故か彼女が出来たと耳にし、周りが華やぎ出すのを感じながら僅かな幸せに浸る。
店先を歩いて行く姿に目が合う一瞬、直ぐに笑みが零れる互いの顔、何も言わなくても同じ気持ちで居るのが通じていた。
「相変わらず、あんたに御執心な彼ね、いつまで持つのかしら」
呆れた口ぶりで言い放ち、凜太郎は伝票の整理を始める。
「そんなの私にも分かんないよ……でも、それでも良いと思ってる」
そう言うと、ふと鼻で笑って返してきた。
「そう思ってる時が一番危ないのよ、気を付けなさい」
そんな言葉を聞きながら更衣室に向かい、着替えを済ませて店から抜け出していく。
『今日は飲み会があるから、先に寝てて』
自然に目が向いてしまう彼の店、今朝の会話を思い出して不安が過ぎる。
帰り道も部屋に帰っても独りで空っぽのリビングに心細さが増していた。
今頃、彼は従業員の女性と笑みを浮かべて飲んでいたりするのか、酔った女性を送り届ける途中で誘われるままに何処かへ消えてしまうのか、などど変な想像を並べる馬鹿みたいな自分を鼻で遇う。
形の戻ったソファーだけ残るリビング、カーテンの無くなった窓に見える空は明けようとしていた。
「マジか……」
不意に聞こえた声に振り返ると、彼が罰の悪そうな顔で佇んで居る。
「おかえり……」
自分でも分かるくらいの頼りない顔に彼は言う。
「ただいま……ごめん、不安にさせて……」
抱き竦めた手が背中の隅々を撫でていた。
「俺は茅紗のことしか考えられないから……心配しないで」
「安田さんのことは信じてるよ……でも、待ってたかったから……」
泣き出しそうな目元に触れ、その指先が唇を撫でる。
「名前で呼んで……明日から一緒に住むんだし……」
「もう、朝だよ……遼葵……」
彼は自分の肩に顔を寄せて窓辺を眺め、同じ目線の中で夜が明けていく。
まるでブルーハーブティにレモンを零したみたいに朝焼けの空が3層に折り重なっていた。



