気付いた時には既に始まっていて止められないどころか手の付けようがなかった。
言いたいことも聞きたいことも口に出来ず、ただ微睡む彼の顔を眺めて同じピアスに思いを寄せる。
今にも寝そうな顔をしてた彼が徐に身体を起こし、脱ぎ散らかした服を手繰り寄せ、ポケットから煙草を出して手にしたまま黙り込んでいた。
罰が悪そうで居心地無さそうな様子に言葉を選んでるのを察し、傍に丸まって潜む服を眺めながらシャツに伸ばした手が震える。
「いいよ……煙草、吸っても……」
吐き出した言葉も布団の中でシャツを着る間も常に何処かが震えていた。
一つ屋根の下で男女が暮す上で避けられない勘違いで起きる錯覚。
最初に提示された規則から外れ、このまま一緒に生活をして行くには無理があった。
恐らく彼も同じことを考えている。
煙草を口にして火を点ける手、ライターから上がる炎、吐き出す白い煙りが揺れていた。
「……さっき、仕事の話したけど……まだ、あって……
近々、此処を出るつもりで探してて……でも決めて良いのか迷ってて……」
そう言って彼は雑誌を手にし、付箋を付けた頁の一枚を広げる。
今の部屋より少し狭い見取り図、築年数も僅かで概観も洒落ていた。
駅も近くて交通の便も比べ物にならないほど良い立地のマンションは家賃も大差が無い。
次の身元を容易く見せて彼は自分を信用していると告げている。
「明日休みだから、行こうと思ってて……
早めに決めて、直ぐにでも引っ越そうと思ってる……」
一線を引かれた切り取れない部分を目の前に伝える事は出来なかった。
「……分かった……また、お店に行くから……カットしてもらいに……」



