それを分かってても、どうしても立ち止まってしまう足。
店先の手前で受付に立って雑誌を捲る彼の姿を目にし、また暫く迷った挙句に思い切ってドアを開いて進んで行く。
「いらっしゃい、もう終わったの?」
そう言って彼は静かに雑誌を閉じて少しだけ笑った。
頷いた拍子に見えた雑誌の表面に"住宅情報"と"賃貸物件"と印字されている。
それは言わずと知れた自分と距離を置く理由の一つとして浮かび上がった。
「引越し、するの?」
「こっち来て……座って」
けれど、自分に食い下がる理由は一つも無く、示された店の一番奥の椅子に腰を掛ける。
誰も居ない店内の静まり返る中、道具を用意する音だけが響いていた。
手際良く進められた作業は一時間も掛からず、鏡に映る自分を眺めながら彼は言う。
「定期的に通った方が色持ちも良くなるし
カットも安くなるから、暇が出来たら来て」
単なる営業用の言葉が今は酷く胸に刺さる。
「お幾らですか……」
その言葉に彼は少し怪訝な顔をし、道具を片付けながら告げる。
「一万二千円……端数は今日はいい、レジ閉めたから」
財布を取り出しながら受付に向かい、住宅雑誌の上に乗せて何も告げずに店を出て行く。
「茅紗、待ってて……直ぐ終わるから」
彼は店先のドアから顔を覗かせ、軽く笑みを浮かべて言うと再び店へと戻った。



