「ごちそうさまでした、美味しかった」
「お礼を言われるほどじゃないから、気にしないで」
ファミレスを出た先で軽く会話をし、駐車場に向かう背後に物凄い勢いで迫ってくる足音が聞こえ、彼が振り向いた瞬間に自分を通り過ぎた鈍器のような物が振り下ろされて行く。
だがしかし、酔っているのか何なのか女性が振りかざした鈍器は掠りもせず、彼も余裕で避けながら力を無くした最後の一振りを片手で受け止めた。
息も絶え絶えな女性を他所に、とてつもなく冷静な声で彼が訊ねてくる。
「茅紗、怪我はない?」
見たことの無い状況と態度に頷くしか出来ず、次第に近付いて来るサイレンの音に彼の背中に身を寄せた。
その時、一歩身を引いた彼が自然に自分の右手を掬い上げ、かさついた手に包まれた一瞬に強く鼓動が跳ねる。
「大丈夫だから、落ち着いて……」
彼の声や一言が胸を掴んで離さなかった。
一歩間違えれば大惨事になる現状で何を考えてるのか、と誰かに殴って欲しくて堪らずに強く手を握り締める。
それでも彼は離さずに此方を気に掛け、何人かの警察に囲まれて質疑応答を繰り返していた。
何度か自分にも向いた質疑応答は見たままを伝えるしかなく、顔見知りで無い件や何の損傷もない事から簡潔に済まされ、ただ彼の横で黙って聞き耳を立てて立ち尽くす。
執拗な質問にも嫌な顔一つせずに彼は応え、飽くまでも顔見知りでない事を固く示していた。
漸く開放された時には二人して大きな溜息を付き、どちらからともなく車に向かって乗り込み、何度も掛からないエンジンを前に手を止めて彼は自分を抱きしめて言う。
「……マジで……死ぬかと思った……」



