トワイライト(上)


既に奪われてますなどと口が裂けても言えなかった。

それから店を出ると彼は何も言わずに距離を置いて先を進み、エスカレーターの前で少し立ち止まって此方を眺めた後で足を踏み込む。

背後を追う目線の脇で谷口が上がってくるのが覗き、軽く手の平を見せて笑みを浮かべながら声を掛けてくる。


「お疲れ、今帰り?」

「あ、うん……」


昇り下りの分かれた曖昧な空間、彼は見上げて此方を眺めていた。


「珍しいな、お前がトレーナー以外着るのなんて」

「少し、出掛ける用事があって……」

「そっか、まさかデートとか?」

「違うよ、谷さんこそ用事在って来たんじゃないの?」


何気ない会話を交わしながら、さり気なく谷口は行く手を塞ぐ。


「俺は残した荷物片付けに来ただけ、お前に会えるとは思ってなかった」

「もう、行かなきゃ……約束してるから……」


目の端で捉えたエスカレーターの下で彼が躊躇う姿が見え、その手を掛けた瞬間に逞しい腕に抱えられ、通り過ぎて行く人影に彼では無い事を把握した時。

僅かに見えた隙を潜り抜け、踏み込む足を止める声が掛けられる。


「なぁ、最後に聞かせて、下に居る奴と俺と何が違うの?」

「比べられる訳ないよ……そんなの
 でも……谷さんの言った事、今なら少し分かる気がする……」