それから何も起こらずに一週間が過ぎ、その間に彼が働く店は開店して女性客が絶えず訪れていた。
朝の営業準備で看板を店先に出して軽く挨拶をしたり、夕方の空いた隙間に正面入り口の窓を拭きながら視線を交わしたり、終わる時間を報せるメールに店先から覗いた柱の影で潜む姿を見て笑みが零れ落ちたりする。
「随分と熱心な人ね、あんたの彼氏」
「そういうんじゃない……けど……」
「なに?いつも見たく否定すればいいじゃない」
物怖じしない凜太郎の言葉は時に遠慮がなく聞こえてしまう。
更衣室で着替えながら物思いに耽けていた。
まだ予断の出来ない状況で近付き始めた二人の距離。
短期間で彼は自分のことを呼び捨てにし、少しずつ詰めて来てるのが分かる。
あれ以来ソファーで眠るようになり、朝起きると必ずテーブルの上に保温ボトルが置かれる代わりに夕飯は自分が作ることのほうが多く、今日は近所から外れたファミレスに行く予定になっていた。
まるで付き合い始めの恋人のような生活が擽ぐる感じがして更衣室を抜け出す。
途端に待ち伏せたかのように凜太郎が此方を舐めるように見回して言った。
「これからデートでも行くような雰囲気ね、その格好」
「ち、がうよ……たまたま、洗濯し忘れただけ」
「ふーん……」
凜太郎は恋敵を厳しい目で見るように視線を這わせ、タートルネックの弛んだ首元を折り直しながら言う。
「口紅が着くわよ、可愛い唇を奪われないように気を付けなさい」



