それから凜太郎と口も利かないままに受付に就き、ただ訪れる客に職務を続け、気付けば夕方近くで隣から怪訝な声が聞こえた。
「ねぇ……さっきから店の脇で誰かが見てるんだけど……」
その言葉に様子を伺いながら足を進め、ドアに近付いた瞬間に見覚えのある人が罰の悪そうな顔で軽く手を挙げる。
「ごめん、仕事中に……鍵届けに来た」
「いえ、わざわざ済みません……ありがとうございます」
真新しい鍵を差し出す手の指先が少しささくれていた。
「いや、まだ店の準備も終わってなくて、ついでだから気にしないで」
「お手数お掛けしました……」
制服のポケットに鍵を入れ、中のハンドクリームに指が触れる。
使いかけの物を渡すのを躊躇い、その場で踵を返すと呼び止められた。
「手塚さん」
「はい」
振り返ると彼は相変わらずの表情で当ても無く視線を這わせ、居心地無さそうな声で言葉を綴る。
「もし、時間があれば仕事帰りに店に寄って
貰った金額も多いからカットだけでも……お礼に……」
「……はい、じゃぁ終わったら行きます……」
そう告げた途端に彼は口角を上げ、不恰好な笑みを浮かべながら店に向かって行った。



