次の朝、少しだけ眠れたせいか身体は僅かに軽さを感じ、枕元の携帯で時刻を確認して散らかった洋服を片付けていく。
それから身支度を整えてカップを手に部屋を抜けてキッチンに向かい、シンクに残った鍋と共にカップを洗いながらリビングを眺める。
昨夜と然程変わらない現状を見つめ、洗い物を終えた後で散らかった物に手を掛けた。
「触るな」
ふと聞こえた短い言葉に手を引き、口から自然に挨拶が零れ落ちる。
「おはよう、ございます……」
「おはよう、ごめん、多分だけどガラス落ちてると思うから」
そう言いながらも彼は素足でリビングに足を入れ、散らかった物を集め出して片付けに取り掛かった。
「あの……怪我……しますよ……?」
「平気、それより遅刻するよ……」
まるで邪魔だと言わんばかりに長い溜息を吐き、彼は此方に目配せをしながら片付けをし始める。
追い払われるような目線にリビングを後にし、浴室で顔を洗って髪に櫛を入れながら鏡に映る不貞腐れた顔を何とか戻す。
浴室から抜けるとリビングは乱雑に片付けられ、ソファーやテーブルにカラーボックスも元の位置に戻っていた。
けれど、棚の上に佇む小さなガラス細工の人形の背からは翼が無くなり、床に敷かれたマットも無くなってカーテンも垂れたまま。
左の部屋から微かに聞こえる物音に耳を傾け、声を掛けようか暫く迷って自室に戻る。
そこで徐にバッグから財布を出して取り出した札を脇に置き、メモ用紙に簡潔な言葉を綴って包む。
それを手に部屋を抜け出してテーブルの上に置き、リビングを後にして職場へ向かった。



