漆黒の鏡 記憶のかけら

朱笆さんと別れた後、私は庭に出て畑の近くを歩いていた。




「よう、掃除終わったのか?」



「!」



声に気付きそちらに振り向くと、恣枦華さんは畑の作業をしていた。




恣枦華さんは手を止め、私に近づいてくる。



まるで、町で知り合いを見つけたかのような感じで。




「あ、はい。終わりました」



「あーあのさ、別にタメでいいよ?」



「えっでも」



「俺、敬語って苦手なんだよ。仕事ではそうしなきゃいけないからしてるけど」



恣枦華さんがそういうのならいいのかもしれない。



「じゃあ、恣枦華・・・くん?」



「・・・・ああ」



そう呼ぶと、恣枦華くんは少しくすぐたいような照れた表情を見せた。



もしかしたらこの人、言うほど怖い人じゃないのかもしれない。



そんな気がした。



「ここは天気の設備がされてんのか、育ちがいいんだよな」



恣枦華くんは植物の葉を持ってそう言う。



「そうなの?」



「ああ」



「環境はよくしてるって事か」




「・・・・・・・・」



私は何気なくじっと彼の事を見つめていたら、私の視線に気づいた恣枦華くんが尋ねてくる。



「何か言いたい事でもあんのか?」



「えっ」




すると、恣枦華さんは作業をしながら、私に対して思うことを口にしだした。



「急にこんなところに閉じ込められたから、何かしらの感情はあるとは思うけどさ。お前はいつも俺らと一歩下がった場所にいるよな?」



「・・・・・・・・」



確かに、みんなとは距離を置いた場所にいる事は自覚してる。



「そりゃあ、俺だって納得してねえし、今すぐこんな場所から出たいけどさ。あのクソウサギの言うこと聞かねえと出してくんないから、しゃあなしでいるよ」



「・・・・・・・・」



「ここで出会った奴らは何かの縁なんだろうな。
最初から仲良くなんか出来ないかもだけどさ、どうせここを出たら会う事はないだろうけど。お前の事情とかもよく知らねえし、記憶失ってるから分かんねえけどさ。
けどさ、ここにいる時だけでも、一歩前に出てみてもいいんじゃないのか?お前だって、俺らが、探り探りで仲良くすんのは嫌だろ?」



恣枦華くんの言いたい事はなんとなく分かる。



分かるけど・・・・・・・・。