漆黒の鏡 記憶のかけら

「沙紅芦」


「紫衣羅くん」


浴室から出てリビングの方へと向かっていると、後ろの方から紫衣羅くんが声を掛けてきた。



「やっぱり、まだ碧斗に言えてないんだね」



私の顔を見て紫衣羅くんは察するように気付く。



「・・・・・・・・うん」



「やっぱり難しい?」


「・・・・・・・・」



難しいと言えば難しいとも言えるけど、そう簡単にも出来きない。



「まあ、沙紅芦にそう簡単に出来るものじゃないよな」


黙りこんでしまっている私に「努力しろ」とか「頑張って言え」とか決して言う事はせず、むしろ肯定の言葉を言ってくれた。


「!」



(あっ)


紫衣羅くんの言葉に何となく気に掛かるものがあった。


これじゃあ、紫衣羅くんに更に心配を掛けてしまう一方だ。


私が碧斗くんに何とかしてあげなきゃいけないんだ。



いつも紫衣羅くんに迷惑掛けてばかりで気に掛けて貰ってばかりで、何もできていない。



碧斗くんを気にしたのも、私自身の気持ちで紫衣羅くんに言われたからとかじゃない、何とかしてあげたいと思ったからだ。



「やっぱり、俺がなんとかするべきかな?」



そう言って紫衣羅くんは髪をクシャとする。



「!だっ大丈夫っ」


私は思わずばっと声を出した


「えっでも」


そんな私の態度に紫衣羅くんは驚いた顔で私を見る。


「大丈夫!私、もう一度頑張ってみるから。すごく頼りないかもしれないけど、けど碧斗くんの事心配だから」



このまま碧斗くんが元気がないのは嬉しくないから、せめての思いだけでも彼に伝えたいから。



私はぐっとはっきりとした目付きで紫衣羅くんに向けた。



「・・・・・・・・っ」



「・・・・・・・・ふっ分かったよ」


すると、私の思いが伝わったのかふわっと紫衣羅くんは微笑み私の頭を撫でた。


「あっ」


「じゃあ、頼むね、沙紅芦」


「あ、うん」


私はコクっと頷くと、紫衣羅くんは少しだけ嬉しそうな顔を向けていた。