漆黒の鏡 記憶のかけら

「うーん、色々ややこしいんだけど、言いたい事はわからなくないよ」



やっぱり紫衣羅くんは私の感情を見ていたんだ。



どうして、そんな風に見てくれるんだろう。




「あのさ、沙紅芦」



「・・・・・」



「別にそんな事、思う必要あるの?
要するに、沙紅芦はいつも人に気を遣ってるって事だよね」


「気を遣ってるかはわかんないけど、必要じゃないの?」



「そういうのいらないんじゃない?」



おかしい事が必要ないって事なのか。


誰に言ってもそういう言葉が出るのかな。



「人という感情って大事だよ。まあ、俺はあまり必要ないけどね?」


「えっ」



(今、紫衣羅くん・・・・)



紫衣羅くんの口から耳を疑うような言葉が出てきたが、彼は気にさせないように続けて私に言葉を掛けてくれる。



「つまりね、どんなに暗い性格を持っている人間でも、いつも近くにいる人が急につらそうな表情していたら、気になるし心配するもんなんだよ」



「・・・・・そういうものなの?」



「そういうものだよ」



そういうのなんだ。



紫衣羅くんもそういう人がいたら気に掛けてあげれるんだ。



やはりこの気持ちは心配するという感情から来ているものなんだ。



(でも、なんか・・・)



紫衣羅くんが与えてくれた人の温かみとは違うものなんだ。



「沙紅芦は、まあ記憶がないからあれだけど、今まで何があったかは知らないだろうけど。人を拒絶していたから、人の想いや心から逃げてきたんでしょ。でも、本当はそれはイケない事なんだよ。でも、ここに来て人の想いを感じ始めたんじゃない?」



「・・・・・そうなのかな」



紫衣羅くんの言葉に戸惑いと揺れる思いを感じた。



まるで心に何かが刺さるかのように。