爽やかなイケメン体育教師……そんな雰囲気の、20代半ばと思われる男だった。


「おお、おはようございますサツサトさん……ですよね。オフでは、はじめまして」

「うん、はじめまして。すぐわかったよ、その帽子」


 鬼のツノがくっついた黒いキャップ帽。これを目印にしてくれと今朝メッセージを送ってあったのだ。

 名前を呼ばれた瞬間に目印の役割を終えたので脱ぐことにする。


「今日暑いし、かぶってれば?」

「注目されるんで嫌です。やめておきます」

「はははは! まあいいや、エンジンかけっぱなんだ。あそこの赤いの。先乗ってて」


 そう言って店の前に駐車されている軽自動車を親指でクイッと指す。おいおい、盗難に遭ったらどうするんだ、不用心だな。

 俺の返事も待たずにお菓子売り場に入っていったサツサトさんをチラリと見てから、車を護るためにも言われた通り先に店を出た。


 助手席のドアを開けた瞬間、控えめな音量でかけられた洋楽が耳に入る。と同時に、エアコンのひんやりとした空気がふわりと身体を包んだ。これ以上車内の冷気が逃げてしまわないうちにさっさと乗り込むことにする。

 車の中はほのかにシャンプーの匂いがする。隅々まで掃除もされているし、ボディもしっかり手入れされていた。


 サツサトさんが会計を終えて店を出て来たのを確認し、シートベルトを締める。そしてゆっくりと、伊達眼鏡と使い捨てマスクを外した。