「なあに?」
俺を見て、由姫がにこりと微笑む。
その笑顔にまた、俺は何も言えなくなった。
「……なんもない。戻るか?」
「うん!」
何かに操られたように動くことを拒んでいる体。なんとかいうことを聞かせて、立ち上がる。
『好きだ』
行き場を失ったその言葉を、俺は静かに飲み込んだ。
「早く早く」と手招きしている由姫を見ながら、悲鳴をあげるほど胸は痛みを訴えていた。
本当は今すぐ抱きしめて、どこにもいかないように閉じ込めてしまいたい。
でも……そんなことをしたって、由姫の心は手に入らないことなんてわかりきっていた。
笑顔を取り繕うのだけは得意だ。
だって……この絶望を味わったのは、2度目だから。
失恋することに慣れているなんて、とんだ皮肉だ。
なあ由姫。
俺は、そんな懐の広い男じゃないから、幸せにしてもらえよなんて嘘はつけねーよ。