「……っ」



 私を視界に映した春ちゃんの表情が、なんとも言えないものに変わる。

 がっかりしたような、けれども安心したような、そんな複雑な表情。



「昨日のは、お前じゃなかったのか……」



 ぼそりと、春ちゃんが何か言った気がした。

 後ろで春ちゃんの首を掴んでいる蓮さんが、おぞましいくらいの低い声で言う。



「おい、いい加減にしろよ。これは宣戦布告か?」



 怒り心頭の蓮さんとは裏腹に、春ちゃんはまるで戦意喪失したように肩を落とした。



「……もう、用はない」

「あ?」



 無言のまま、引き返していく春ちゃん。

 蓮さんは意味がわからないと言いたげな顔をしていたけど、私は心底ほっとした。