「……おやすみ」



 み、南くんっ……!?

 耳元で囁かれた声は、いつもとは色気のある声だった。

 扉を開け、何事もなかったように出ていった南くん。

 ひとり残された私は、その場にぺたりと座り込んだ。

 な、何今のっ……。

 どうして、ほっぺにキス……?

 というか、いつもの南くんじゃなかったっ……。

 いつものかわいさ全開の天使のような南くんではなく、なんていうか……男の顔、だった。

 ど、どうしちゃったんだろう……。もしかして、南くんも帰国子女?

 キスは挨拶、とかなのかな?

 うん、きっとそうだ……気にすることじゃないんだろうな。

 そう思うことにして、私は寝る支度をするため浴室へと向かった。


 南くんが……。



「これで由姫も、少しは僕のこと意識してくれたかな~」



 楽しそうにそんなことを言っていたなんて、知る由もなく。