ある日のこと、
私の教室に大急ぎでやってきて、キョロキョロ見回して、私と目があった瞬間こちらへ全力疾走してきた男子。
「りぃ!教科書貸してくれ!」
手を合わせて懇願してくるのは、私の幼なじみの永久(とわ)。
「えー、しょうがないなー」
幼稚園のころからの腐れ縁。
そういえば、最近はあまり話してなかった。永久は根っからのスポーツ男子だから、部活に打ち込んでるしね。
「まじありがと!神様仏様りぃ様〜」
「はいはい、もうチャイム鳴るよ」
教科書を貸すと超喜んで調子良いことを言い出した永久。
時計を指差すと「やっべ」と言ってまた全速力で教室に帰って行った。
特に何も無く1日が過ぎ、放課後。
いつも通りだと、そろそろ玲夜くんが私の教室まで迎えに来てくれるかなーというとき。
「りぃ〜、教科書ありがと〜」
やって来たのはサッカー部のユニフォームに着替えた永久。手には今日貸した教科書が握られている。
「いえいえー、永久部活頑張ってねー」
そう言って受け取って、「おう!じゃーな」と永久がちょうど去った、そのとき。
「…莉都ちゃん、浮気かな?」
こだましたのは大好きな、甘い声。
…だけど、今はいつかのときみたいに冷たい。
振り返ると、玲夜くんがドアの近くに立っていた。
「そんなわけないじゃん、永久は幼なじみで」
そうやって話し始めた瞬間、
「黙って」
…空間の全ての音を静止させる、そのくらいの絶対的な雰囲気で、彼は私を黙らせた。
それからすぐに彼は、席に座る私の真後ろまで歩いて来て、
「立ってよ」と私を立たせると、ゆっくりと後ろから抱きしめてきた。
…今、玲夜くんはどんな表情なのかな。
長身の彼は屈んでいるのだろう、私の耳元近くで囁いてきた。
「…永久、へぇ、呼び捨て?随分と仲が良いんだね」
耳元でいつもより低く話されると、背中に電流が走ったみたいでくすぐったい。
それを必死に耐えていると、
「…はぁ」と、ため息が聞こえてきた。
…も、しかして、なんか、私、彼に愛想つかれちゃった…?でも、だって、永久は幼なじみだし…。
そんなことをぐるぐる考えていると、
不意にくるりと、玲夜くんのほうに体を向けられた。