ずるい。
 十環先輩。


 私が悪魔みたいにイジメてくる
 十環先輩のことが大好きだって
 気づいていて、
 思いっきり私を抱きしめながら
 甘い声でこんなことを言うなんて。


 でも、それは嫌。

 十環先輩がもう
 私の前に現れないなんて
 絶対に嫌。


「悪魔モードの十環先輩も……す……」


「まって、桃ちゃん。
 その前にきちんと謝らなきゃ」


「ひゃ!」

 
 十環先輩は右手を私の頬に置くと
 親指で優しく私の頬を撫でだした。


 息がかかりそうなほど近くにある
 十環先輩の顔。


 私を見つめる瞳が優しくて
 その瞳から目が離せられない。


「俺が殴ったところ、もう痛くない?」


「……うん」


「ごめんね。痛かったよね?」


『大丈夫です』と言おうとしたのに。


 十環先輩の顔が
 ゆっくりゆっくり近づいてきて。

 気づいた時には
 私の唇は
 十環先輩の唇で塞がれていた。


「これでもまだ、信じれれない?
 俺の気持ち」


 私はブンブンと頭を振って
 うつむきながら思いを吐き出した。


「王子様モードの十環先輩も
 悪魔モードの十環先輩も……
 大好きです」

「そんな可愛いことを言われたら
 もっと桃ちゃんに、触れたくなるから」


「え?」


 甘い言葉が私の脳に届いた時には
 十環先輩に思いっきり
 抱きしめられていた。


 幸せだ。
 幸せすぎる。


 ステージから届く
 甘い甘いラブソング。


 ずっと聞いていたいな。


 このままずっと
 十環先輩の腕の中で。