「私が想像していたよりは
 心が軽くなったかな。

 それに十環先輩は
 もうすぐ卒業だから。
 そのまま会わなくなれば
 自然に忘れられるよ。

 だから龍兄、もう
 この家に十環先輩を連れてこないでね」


「ああ。わかってる。
 それよりさ、桃に良い男を紹介してやる。
 今、TODOMEKIの総長をやっていてさ」


「総長かぁ」


「程よく筋肉がついていて
 男らしくてかっこいいぞ。

 ちょっと不愛想だけど
 大事な仲間のことは絶対に守るし。
 ケンカも強いしな。

 桃も守られたいだろ?
 自分より強い男に」


「まぁ。
 そんなお姫様願望はなくはないけど。
 今は恋なんていいや。
 もうこんな苦しい思い、したくないしね」


「桃……」


「それに
 お兄ちゃんから私を紹介されたら
 その人だって断れないでしょ?

 TODOMEKIの前総長の妹で
 初代総長の娘だよ、私は」


「アハハ。だな」
 やっぱり桃は、世界一いい女だよ」


「龍兄に言われても嬉しくないよ。
 そういう龍兄はいないわけ? 
 好きな子」


「え?
 そ……それは……」


「いるんだね。どんな子なの?」


「絶対に言わない!
 桃には、死んでも言いたくない」


「ずるいじゃん。
 私はしゃべったのに」


「お前、もう戻れ!
 早く部屋に返れ!」


 今までに見たこともないような
 真っ赤に染まった龍兄の顔。


 龍兄って好きな子のことになると
 こんなにかわいい顔をするんだって
 初めて知った。


 私は龍兄に部屋を追い出され
 痛むお腹を押さえなら
 自分の部屋に戻ったけど。


 ニヤけ顔が元に戻らない。
 龍兄に、大好きな子がいたなんて。


 龍兄に本気で愛された女性は
 幸せになるか不幸になるか
 どっちかだと思う。


 だって龍兄は
 大事な人のためなら
 自分を犠牲にしちゃうタイプの
 人間だから。


 とことん愛される反面
 龍兄の傷つく姿を見届ける覚悟がないと
 絶えられないと思うから。


 龍兄が本気で好きになった相手って
 どんな人なんだろう?


 私も気配を消す技を身につけて
 龍兄の恋を覗いちゃおうかな。


 不気味な笑いが止まらないまま
 私は自分のベッドにばたりと倒れこんだ。