「一颯、ありがとう。
 話したらちょっとだけ
 モヤッとしていたものが消えたよ」


「じゃあ、ごんぞうを持って行くか?
 中3の時みたいに
 お前のことを癒してくれるかもよ」

「いらないよ。
 大きくてバックには入らないしさ。

 あの時だって
 ごんぞうを抱えてバスに乗るの
 恥ずかしかったんだからね」


「そんなの、気にしなきゃいいじゃん。
 ま、
 そういうことなら
 十環、こっちを持ってけ」


 一颯はそう言って
 俺の手の中にお守りを入れてきた。


「これって、
 一颯が桃ちゃんのために
 作ったお守りでしょ?」


「だってさ、お前と桃ちゃんのために
 1日かけて刺繍したんだぜ。

 それなのに、俺のところに返ってきてさ。
 責任もって、十環が持っていろ」


「いらないよ。
 俺、お守りを持ちたい人の気持ちなんて
 これっぽっちもわからないし」


「お前さ、綺麗な顔して
 酷いことをサラッと言うよな。
 そういうところを直さないと
 いつか誰かに刺されるぞ」


「大丈夫だよ。
 俺、TODOMEKIを辞めてからも、
 武道や格闘技の稽古はしているからさ。

 でも、もらっとこうかな。そのお守り。
 一颯が作ったものだしね。
 魔除けくらいにはなりそう」


「もっと、ご利益あるわ!」


 一颯の笑い混じりのおどけた声に
 また俺の心が軽くなるのを感じた。


 そして
 そのお守りを鞄に入れ
 少しスッキリした気持ちで
 一颯の家を後にした。