「お昼を食べる前に
 手合わせお願いしてもいいですか?
 私ずっと
 十環先輩と戦ってみたかったから」


「俺でいいの?
 毎朝、虎くんと組手しているんでしょ?
 虎くんに比べたら、弱すぎだよ、俺」


「そんなことないって
 龍兄が言ってましたから。 
 十環先輩と私が戦ったら
 いい勝負になるって」


「桃ちゃんがそこまで言うならいいよ。
 俺、桃ちゃんを泣かす気で行くからね」


「アハハ。
 それは楽しみです」


 ジャージに着替え
 講堂の真ん中でお互いに距離を取る。


「よろしくお願いします」


 二人の声が重なったと同時に
 十環先輩が先に仕掛けてきた。


 つい見惚れるほど
 綺麗な十環先輩の回し蹴り。


 突きと蹴りを織り交ぜた
 流れるような優雅な動き。


 私の前蹴りからの回し蹴りを
 バク天で避けるところなんて。

 0.0001秒も十環先輩から
 目を離したくないって思うくらい
 見事な動きだった。


 何やっているんだろうな。私。

 真剣な瞳で、勇ましく回し蹴りをする
 十環先輩を見たら
 もっと好きになるに決まっているのに。

 そんなこと
 やる前からわかっていたはずなのに。


 十環先輩の攻撃を避けながら
 さらに好きって気持ちが
 膨れ上がっている自分がいる。


 これ以上続けたら危険だな。

 結愛さんのキャラメルを
 十環先輩に渡さずに
 ゴミ箱に捨てちゃうかもしれないな。


 このままずっと
 十環先輩と手合わせをしていたかっけど
 心まで醜い自分になりたくなくて
 終わりにすることにした。


「十環先輩、ありがとうございました。
 着替えて、お弁当にしましょうか」