「十環先輩、お願いがあるんですけど」


「何?」


「今日のお弁当
 講堂で食べたいんですけど
 学園長に頼むことってできますか?」


「いいよ。
 学校に着いたら
 学園長におねがいしてみるね。

 でもなんで
 桃ちゃんは講堂でお昼を食べたいの?」


「それは……」


 桃ちゃんの声が途切れた。


 ふと桃ちゃんを見ると
 太陽みたいにキラキラしていた
 表情が消え
 なぜか瞳に陰りが見えた。


「桃ちゃん?」


 俺の声に
 また笑顔が戻った桃ちゃん。


「あ、それは、この前できなかったから。
 私、言いましたよね? 
 ケンカの手合わせをして欲しいって」


「そうだったね。いいよ」


「嬉しいです。 
 じゃあ、今日のお昼は
 ジャージ持参です!」


 再び
 瞳にキラメキが戻った桃ちゃん。


 子供みたいな
 無邪気な笑顔の桃ちゃんに
 なぜか視線がくぎ付けの俺。


 めったに見ることができない
 桃ちゃんのこの笑顔を見ると
 つい思ってしまう。

 もっともっと
 桃ちゃんを笑顔にさせたいなって。


 こうなったら
 どんな手を使ってでも
 講堂を使う許可を取らないとな。


 この時の俺は
 早くお昼休みにならないかなと
 胸を弾ませていた。


 あんなことになるとは知らずに。