そして、今日。
放課後に彼に別れを告げようと思っていたら、なんと同じクラスの男子に呼び出された。
「俺、園田さんのこと好き…なんだけど、彼氏、今いるの?」
まさかの、私のことが、好きらしい。
確か、私と峡くんが付き合ったときにその噂は広まったけれど、
今は付き合っているのかいないか曖昧だから、そのことを聞いているのだろう。
「えっと、彼氏は一応?いるんだけど、もう飽きられてるから今日別れる予定なんだ」
そう、目の前の男子に返した、瞬間だった。
「…誰が、お前に飽きてんの?」
背後から、
低くて、なのにどこか甘い、私の大好きな声が聞こえた。
思わず振り返ると、
そこには今まで見たこともないくらいに、不機嫌に顔を歪めた、
峡くんがいた。
人があまり通らない管理棟の廊下。
モデル体型の彼は足も長く、すぐに私の元にたどり着くと、
その手で私の腕を無理やり掴んで、
「ついてこい」
そういうと遠慮のない足取りでスタスタとどこかへ向かって歩いていく。
「ねぇ!待ってってば、田代くんに失礼だよ」
そう、さっきの男子の心配をするや否や、
彼は乱暴に私の腕を引っ張り、私を近くの壁に押し付けた。
久しぶりに、彼と至近距離で目があって、
やっぱり、心臓は高鳴ってしまう。
美しい彼の漆黒の瞳には、
震え上がるほどの怒りが含まれていた。
「…なぁ」
「俺がいつ、お前に飽きた?」
答えろよ、とでもいうかのような、服従させるその声。
…何、なんなのよ。
「…確かに飽きては無い、かもね。だって、そもそも私のこと、好きじゃなかったんでしょ?」
そう言った瞬間、彼は壁を押さえる右手の拳を力強く壁に叩きつけて、
「…ッふざけんな‼︎‼︎‼︎」
その綺麗な顔を歪めて、
とんでもなく取り乱して、彼は怒りのままに叫んだ。
そんな姿を見るのは初めてで、正直、何が起こってるのか全然わからない。
彼はその勢いのままに、
「冷たくしても飄々としてるし」
「無視しても傷つかねぇし」
「他の女と話しても妬かねぇし」
どこか悲しそうに、そう羅列する。
その全てが、これまで私が傷ついてきた彼の言動だ。
なのに、彼は自分が捨てられる、みたいな表情をしている。
「…俺ばっかり、お前のこと好きなんだな」
「……はい?」
この、目の前の美しい男は、今なんと言った?
「はい?じゃねぇよ、俺はお前が他の男と話してるだけで狂いそうなんだよ」
「まじで、俺なんかした?」
………要するに、彼は私の愛を確かめたくてここまでの半年間を費やしてきたの?
「……なんかしすぎだわ馬鹿‼︎」
この男、瀬野峡。
性格ひん曲がりイケメンは、不器用すぎながらも私を愛してくれてるみたいです。



