部屋を出たカルミアが建物を振り返ると、それはパートのような造りだった。それもどうやら学園の敷地内に建つようで、見慣れた校舎が近くに見え隠れしている。
 外に出たカルミアは周囲を確認しながら蝶の後について歩いた。

(……ん?)

 歩き始めてしばらく経つと、カルミアは蝶の向かう先に疑問を抱くようになっていた。
 ゲームでたびたび登場していた校内マップを思い浮かべるが、教室とは別の方角へ向かっている気がする。ぐるりと校舎の外周に沿って歩き、まるで学園の奥にある森の方へ向かっているようだ。

(この先に何かあった? ゲームでは何も、特に進めなかったはずだけど)

 学園の敷地は広大で、ちょっとした散歩のようなっている。
 すると森の手前に何か建物が見えて来た。 

(見た目は礼拝堂みたいだけど、ちょっと……かなり不気味な雰囲気ね)

 晴れているはずが、その周辺にだけ薄暗いオーラが漂っている。外壁にはしる亀裂も怖さを感じさせる。加えて背後には薄暗い森が広がり、より不気味さを演出していた。

(魔女の住み家……ってここにいる人はだいたい魔女よね)

 やがて蝶は目的地に辿り着いたのか、扉の前で消えてしまった。たった今、カルミアが魔女の住み家と不気味さを感じた建物の前で。

「まさか、まさかね。……目的地って、ここ?」

 間違いであれという願いを込めながら、カルミアは扉に手を伸ばす。扉は重く、何が飛び出すのかわからない。隙間から中を覗くと、外観の不気味さに反して清浄な空気が漂った。
 天井は高く、造りは礼拝堂に似ている。広いフロアには木製のテーブルが並び、入口から奥の方まで伸びている。同じようにイスも用意され、多くの人が集まることを想像させる場所だった。
 どうやら先客がいたらしく、フロアにいた少年が振り返る。そこでカルミアは無邪気な笑顔と出会った。

(攻略対象のロシュ!?)

「あ! 貴女が今日からこの学食で働く人ですね!」

 ロシュによると、どうやらここは学食――学生食堂らしい。
 しかしまずは別の点について触れさせてもらおう。

「私が、ここで……働く!?」

 数分前の浮かれきっていた自分が恥ずかしい。そんなカルミアをあざ笑うかのように遠くでは始業の鐘が鳴り響く。
 ここからカルミアの長い一日が始まろうとしていた。