「何言ってんすか、どう聞いたってお嬢の身を案じてるってのに!」

「誰がどう聞いたって食を案じているわよ! だいたいリデロだって料理出来るじゃない。私に頼る必要はないんだから」

「野郎の作る飯とお嬢様が手ずから調理して下さったものが同じだとお考えで!? 作る前から天と地ほどの差があるでしょうが!」

「知らないわよそんなの!」

 カルミアは一刀両断するが、彼らがここまで言うのだ。後学のためにも頼りになる人に聞いてみることにする。

「あまり私には理解出来ない感覚なんですけど、そういうものなんですか? リシャールさん」

 するとリシャールは考えるまでもなく答えた。

「同じ男ですからね。私も彼らの言い分は理解出来ますよ」

 この発言をきっかけに、お嬢様を奪う男と船員たちとの一色即発な関係が緩和した。するとリデロは出会った時と同じようにきやすくリシャールの肩を抱く。

「なんだよ~、色男。さてはお前も恋人いないだろ~」

「ご想像にお任せします」

「そうかそうか俺らのお仲間だったか~」

 悲壮を浮かべていたリデロは見るからに上機嫌になっていた。

「しょーがねーな。ちょっとの間だけお嬢を貸してやるよ」

「なんでリデロが上から目線なのよ」

 このようにカルミアが船を降りるには船員たちとの涙無くしては語れない、別れの物語が隠されていた。
 しかし泣きたいのはわりと本気でカルミアの方だったりもする。正直、夕食には腹いせに激辛調味料でも混ぜてやろうかと考えた。
 そんな一悶着を経て船はロクサーヌに到着する。
 港に船をつけるとリシャールは早急に学園へと戻って行った。性急な別れは明日からカルミアが潜入出来るよう手筈を整えるためだ。
 カルミアは明日、生活に必要な荷物を持って学園を訪ねるようにと言われている。

 それがまさか、あんなことになるなんて……

 この時のカルミアは想像もしていなかった。