「どうすれば!? これどうすればいいの!?」

 先ほどまでは寝込んでいた人である。激しい衝撃を与えるべきではないだろう。むやみに動けず、どうしたものかと途方に暮れていると、頼もしい助っ人が現れた。

「カルミアー!」

 どこからともなく聞こえてきたのはオランヌの声だった。

「はっ、はあっ――っ、大丈夫、じゃないわねえ」

 オランヌは荒い呼吸を整えながら、後半はこうなることがわかっていたかのように呆れていた。

「オランヌ、リシャールさんが大変なの!」

「そうみたいね」

 呆れ顔から一転、オランヌはカルミアの前で両手を合わせる。

「ごめんカルミア! あたしがこの人に余計なことを言ったばっかりに!」

「余計な事?」

「カルミアはあんたに愛想をつかして出ていった。二度と会いたくないって話したら真に受けちゃって! 止める間もなく魔法ですっ飛んでいったのよ。勢い余ってカルミアのこと押し倒してたらどうしようかと思ったけど、まさか本当に押し倒しているなんて!」

「これオランヌのせいなんだ」

 頼もしいと思っていた助っ人は元凶だ。

「お、怒らないで! 待って、言い訳をさせて! この人ってば、目が覚めるなりカルミアのことを聞くのよ。カルミアのことを傷つけておいて虫が良すぎるわ。それでちょっとくらい痛い目みせてあげようかなーって意地悪言っただけなの。そしたら目にもとまらぬ速さで起き上がって窓から飛び出していくんだもの! あー怖かった」

 あの時の迫力といったらと、目撃者は語る。

「ほら、これでわかったでしょ? この人がどれだけカルミアを必要としているのか。大切に思っているのかもね」

 オランヌの言葉にはただただ混乱するばかりであった。

「とにかく、この人を運びましょう! いつまでもカルミアを潰させてはおけないわ」

「賛成よ!」

 オランヌがリシャールを担ぎ、カルミアは落ちていたトランクを拾う。非常事態ということで、馬車を使って学園へと戻った。
 さすがにカルミアもこの状態のリシャールを放って船を追跡することは出来なかった。