それから数日の間、リシャールの不在は続いた。

(今日も来なかったわね……)

 毎日当たり前のように顔を合わせていたせいで急に不安になってしまう。きちんと食事をとっているのかと、大人相手に子どものような心配までする始末だ。

「はあ、疲れたっと。カルミアさん、フロアの方は一段落しましたよ」

 営業時間も後半に入るとロシュが厨房へ顔を出す。カルミアが水を差し出せば喜んで飲み干した。

「ドローナ先生が入ってくれたおかげで随分と楽になりましたね」

「そうね。始めはどうなるかと思ったけど、ドローナには感謝しないとね。ところで、ロシュは最近校長先生を見かけた?」

「そういえば見ないですね。あんなに熱心に通って下さってたのに、どうしたんですかね?」

「忙しいのよね、きっと……」

 もし、何かあったとしたら?
 そんな不安が浮かぶのはリシャールから受けた依頼のせいだ。
 仮に何かあったとして、学園の乗っ取りに関わる事態だとしたら……
 仕事が忙しいだけだとわかっているのに、ただのカルミアとしても、密偵としても不安が募っていく。

「カルミアっ!」

 考え込むカルミアに背後から抱き着いたのはドローナだ。

「どうしちゃったのよ。ぼーっとして、悩み事?」

 先ほどまではロシュと話していたし、リシャールは学食の常連でもある。ここで彼の話題を出すことは不自然ではないだろう。それにドローナに聞けば彼女の視点から得られる情報もあるかもしれない。

「校長先生のことなんだけど、最近来てくれないなって、心配していたの」

「リシャールのこと? 確か仕事で学園を離れているのよね。明日には戻るらしいけど、もし会えたら学食に顔を出しなさいって私からも伝えておくわ」

「そう、明日には戻るのね。ありがとう、ドローナ。でも学食は無理に来てもらう場所じゃないから、忙しいのに無理強いはちょっと……」

「なら新作デザートを出すといいわ。甘いに匂いにつられてリシャールも誘い出されるわ!」

「たく、甘いのはあんたの考え方だろうに」

 口をはさんだベルネにドローナは露骨に嫌な顔を向けた。

「ベルネに話しかけているわけじゃないのよ。デザートの素晴らしさもわからない石頭は黙っていなさい」

「砂糖菓子みたいにふわふわした女に言われたくはないね」

「なんですって」

「なんだい」

 妖精たちはバチバチと火花を散らしている。
 二人のやり取りにロシュは慌てているが、カルミアにとっては心地の良い賑やかさだった。きっと浮かない顔をしている自分を励まそうとしてくれたのだろう。